研究開発の意思決定を加速する情報活用
社内外の技術・情報をかけ合わせ、新たな価値創出へ

ポーラ化成工業株式会社
研究戦略・イノベーションセンター 研究戦略ユニット 濵中 祥弘

ポーラ化成工業株式会社では、研究所で生まれた技術を化粧品領域にとどめず、新たな事業価値へ展開する取り組みを進めています。
その中で重要となるのが、社内の研究で得られた知見と外部情報を掛け合わせながら、技術の可能性を見極めることです。
同社では、研究開発の企画段階でMDBを活用し、市場・研究・技術動向を横断的に調査しています。今回は、研究技術を事業へつなげるための情報活用について伺いました。

 

 

部門横断の連携を加速し、新たな価値創出へ

——お仕事内容やミッションについて教えてください。

ポーラ化成工業は、ポーラ・オルビスグループの中で研究開発と生産を担っている会社です。研究開発の機能は大きく三つに分かれており、皮膚科学などの基盤研究を担うフロンティアリサーチセンター、生産と研究をつなぐテクニカルディベロップメントセンター(TDC)、そして製品設計・開発部門があります。

三つの部門はそれぞれ専門性を持っていますが、より新しい価値を生み出していくために、部門間の連携を進めることが重要だと考えています。そうした背景から、2026年に新設されたのが、私の所属する研究戦略・イノベーションセンターです。

このセンターでは、R&D戦略の統括に加えて、研究成果や技術をどのように事業価値へ転換していくか、グループ内外の連携をどう加速していくかという役割を担っています。単に研究を進めるだけではなく、生まれた技術をグループの中でうまく活用してもらい、事業へつなげていくための旗振り役でもあります。
センター内には、研究戦略ユニット、事業戦略ユニット、広報戦略ユニット、データサイエンス&AI戦略コアユニットがあります。私は研究戦略ユニットに所属し、中長期戦略の策定や新テーマの進捗管理、予算管理などを担当しています。

各部門の取り組みを横断的につなぎ、社内の技術知見と外部の情報、技術、人脈などを掛け合わせながら、新しい価値を作っていく。社内外の連携をつなぐ潤滑油や、接着剤のような存在になることが、私たちのミッションだと考えています。

社内技術と外部情報をかけ合わせ、新規事業の可能性を探る

——どのような調査・情報収集テーマが多いですか。

化粧品に関する技術や市場、成分に関する情報の調査に加え、最近では、化粧品の価値を別の形で展開し、新規事業につなげる取り組みに向けた情報収集も増えています。
そのため、調査対象は化粧品領域にとどまりません。異なる業界の市場構造、競合、技術動向、関連する研究者や論文なども見ていく必要があります。自分たちが持っている技術が、どの領域で価値を持つのかを見極めるためには、社内の技術や自社の周辺領域だけではなく、市場や競合、利用現場の課題といった外部情報も合わせて見ていく必要があります。

——化粧品以外の領域へ展開した事例を教えてください。

すでに公開されているものでは、暑熱対策の社会課題に着目した「カオカラ(※)」という製品があります。カオカラは撮影した顔画像をもとに、顔の変化(顔色、表情、発汗)をAIが解析し、リスクを見える化します。現在はグループ会社で事業化されていますが、もともとはポーラ化成工業の研究から生まれました。

当社は長年、顔の肌状態を分析する技術を強みとしてきました。「カオカラ」は、その技術を応用することで生まれました。ただ、顔の状態解析という技術が、どの業界でどのような価値を持つのかは、当初から明確だったわけではありません。化粧品とは異なる領域ですので、市場構造や課題、利用シーンを一つずつ確認していく必要がありました。

そのため、調査と現場での検証を並行して進めました。プロトタイプが見えてきた段階で建設業に関わる展示会に出展し、実際の利用シーンに近い環境でヒアリングを行いました。「こういうものがあったら使いますか」「どの程度重要な課題ですか」と直接確認しながら、市場との接点を探っていきました。

新規事業領域では、最初から明確な答えがあるわけではありません。公開情報の調査と、現場で得られる声の両方を組み合わせながら、研究所で生まれた技術をどのようにグループで活用していくかを考える必要があります。

※「カオカラ」サービス紹介サイト:https://kaokara.jp/

研究戦略・イノベーションセンター 研究戦略ユニット 濵中祥弘様

研究開発の意思決定を支える、MDBの情報収集・調査

——MDBはどのような場面で活用されていますか。

化粧品領域でも、新規事業の領域でも活用しています。特に多いのは、研究開発の上流段階です。新しいテーマの仮説が出てきたタイミングで、その周辺情報を網羅的に整理するために依頼することが多いです。

私たちの依頼は、技術寄り・研究寄りのテーマが中心です。例えば、「ある因子が肌のどのような現象や反応に関係しているのかを調べたい」といった内容です。関連する論文や研究動向を確認しながら、その仮説にどの程度裏付けがあるのかを整理していくイメージですね。特に新規領域では、どの情報を見ればよいのか分からない状態からスタートするので、市場、競合、技術、研究動向など、複数の観点で整理していただける点は非常に助かっています。
また、ある程度調べたいことが明確になっている場合は、早めにMDBに相談するようにしています。調査を進めていただいている間に、こちらは別の角度から検討を進められます。結果として、初動が早くなり、意思決定までの時間も短縮できていると感じています。

もう一つ重要なのが、公開情報で確認できる範囲において、該当情報が見当たらないことを把握できる点です。研究開発では、新規性をどう判断するかが重要です。情報があることを確認するのは比較的進めやすい一方で、見当たらないことを自分たちだけで調べるのは大変です。第三者の視点で調査結果として提示いただくことで、この方向で進めてよいかを判断する材料になります。

一歩踏み込んだ技術の話ができることが、
MDB活用の大きな価値

——さまざまな情報収集手段がある中で、MDBをどのように使い分けていますか。

一番大きいのは、一歩踏み込んだ技術の話ができることです。研究開発で使う情報は、単に市場情報を見るだけでは足りないことがあります。研究や論文、関連技術の背景まで含めて、ある程度深いところまで会話できることは、研究開発部門にとって非常に重要です。

もちろん、さまざまな検索サービスやデータベースがありますし、それぞれに適した使い方があります。その中でMDBは、こちらの状況や目的をヒアリングしたうえで、調査の切り口を整理していただける点に価値を感じています。
私たちは研究員ですので、技術や研究テーマについては専門性を持っています。一方で、調査設計や情報源の選定については、リサーチを専門とする方の知見を活用した方が効率的な場面があります。
MDBでは、こちらのテーマに合わせて必要な情報を組み立ててもらえるため、単に資料を集めるだけではなく、次の検討につながる形で整理された情報として活用できます。そうした対話型の進め方が、他の情報収集手段との違いだと感じています。

また、調査を依頼している間に、こちらは得られた情報をどう活かすか、どのように価値へ転換するかを考えることができます。情報収集の効率化だけでなく、研究員がより創造的な検討に時間を使えることも大きなメリットです。

研究戦略・イノベーションセンター 研究戦略ユニット 濵中祥弘様

生成AIとMDBを組み合わせ、
研究開発の精度と信頼性を高める

——生成AIの活用が進む中で、AIとMDBの使い分けはどのように考えていますか。

研究活動の中では、機械学習や画像解析などのAI技術はすでに活用しています。生成AIについても、公開情報の整理や概要把握といった大枠な情報整理には使っています。
一方で、研究の方向性を決める場面では、情報の信頼性が非常に重要です。生成AIは便利ですが、ハルシネーションのリスクもあります。例えば、AIが「こういう論文がある」と示しても、その論文が本当に存在するのか、内容が正しく引用されているのか、出典として妥当なのかは確認する必要があります。

社内としても生成AIの利用ルールや体制の整備を進めていますが、現状では重要な判断に使う情報については、しっかり人の目で確認することが欠かせません。
そのため、初期段階では生成AIで大まかな論点を把握し、その後、MDBで裏付けを取るという使い分けをしています。特に、研究テーマを継続するかどうかを判断する場面や、事業会社へ提案する段階では、情報の正確性や網羅性が重要になります。
仮説のベクトルがずれてしまうと、その後の研究開発全体に影響します。早い段階で信頼性のある情報を得て、方針を立てる。そのうえで社内議論し、事業会社への提案や商品化の検討につなげていく。そうした流れの中で、MDBを活用しています。

技術と情報をかけ合わせ、次世代の価値を創出

——最後に、今後の展望についてお聞かせください。

現在はムーンショット型の研究も新たに進めており、「ミラースキン」という大きなテーマに取り組んでいます。これは、個々人の肌を培養組織として試験管内に再現することを目指すプロジェクトです。化粧品への応用はもちろん、再生医療などへの展開も視野に入れています。

また、化粧品の作り方自体を変えようという取り組みも進めています。化粧品は基本的に、油と水を混ぜる技術をベースにしていますが、それだけでは生まれにくい新しい感触や機能もあります。そこで、化粧品では通常使わない製造装置や技術を応用し、物理的な力や特殊環境下で混ぜる、ちぎる、溶かすといった新たなアプローチによって、これまでとは異なる価値を見いだせないかを研究しています。
弊社は2029年に創業100周年になります。今後も生活者のためにどういう価値を提供できるのかを見つめ続けながら、化粧品でも化粧品以外でも圧倒的に新しい価値を目指していきたいと思っています。

研究戦略・イノベーションセンター 研究戦略ユニット 濵中祥弘様

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