
消費者調査にAIをどう活用する?消費者インサイトを調べる際の注意点
生成AIの普及により、消費者調査の現場でも、AIを活用する場面が増えています。仮説づくりや情報収集、レビュー分析など、AIは調査のあらゆる場面で大きな力を発揮します。一方で、AIが出した回答をそのまま信じてしまうことにはリスクが伴います。
今回は、消費者動向や消費者インサイトの調査に携わるマーケティング・データ・バンク(MDB)のリサーチャー・大塚さんに、AI活用の実態と、消費者調査におけるAIの注意点や重要な視点について聞きました。
この記事の要点
・生成AIは消費者調査の初期段階における仮説づくりや公開情報の有無を把握するのに有効
・一方で、少数意見を大きく扱ったり、調査対象の条件がずれた情報を拾うことがある
・AIの回答は、出典・調査対象・調査時期・数字の根拠を追加で確認する必要がある
・消費者調査では、代替情報をどう使うかの判断が重要
・AIやWeb検索だけでは見落とされやすい情報源もある
話し手プロフィール
大塚 寛子
マーケティング・データ・バンク(MDB)のリサーチャー。消費者動向・消費者インサイトなどに関する調査を通じ、MDB会員企業様の事業支援に携わる。官公庁統計、業界紙・専門紙、調査会社レポート、企業情報などを横断的に調査し、商品企画・新規事業検討に必要な情報収集を支援している。
1.消費者調査でAIを活用すると何ができるのか?
――消費者調査ではAIをどのような場面で使っていますか?
まず使いやすいと感じる場面は、公開情報がどの程度存在するかを把握するときですね。あるテーマについて、Web上に消費者アンケートや意識調査が豊富にありそうなのか、それとも情報が少なそうなのか。その難易度を最初に見るうえで、AIは便利だと感じています。
あとは、テーマによってどのような観点でアンケートが実施されているかを把握するときにも使いますね。消費者調査の領域では、AIを使ったペルソナ作成サービスも出てきていますし、生成AIによって新しい仮説を立てやすくなっている側面もあります。Web上で無料で得られる情報の範囲であれば、消費者像やニーズの仮説を整理したアウトプットが比較的短時間で得られます。
――調査の入口で、全体像をつかむために使っているということですね。
そうですね。また、通販サイトなどでは、商品レビューをAIが要約しているケースもあります。こうした情報は、消費者の反応や不満点の傾向を把握するうえで参考になります。
2.AIの回答で情報は足りるか?
――AIが出した調査結果に対して、追加で調査をすることはありますか?
必ず調査をします。AIが出してきた情報を見たうえで、Web検索でもキーワードや検索方法を変えながら、AIの回答に含まれなかった情報がないかを確認します。
AIの回答とWeb検索の結果が、まったく同じになることはほとんどありません。Webで検索すると、AIの回答には含まれていない情報が見つかることが多いです。結果的にそれが不要な情報だったとしても、「そういう調査が存在することを確認した」ということ自体に意味があると考えています。
AIで情報を収集すると、何が切り捨てられたのかが見えにくいことがあります。なぜその情報を紹介したのか、逆になぜ別の情報は外したのか。そのプロセスは、AIに改めて確認をする必要があり、結果的に最終的な回答を得るまで時間がかかることもあります。公開情報の調査とAIは相性が良いと思いますが、なぜその情報を出してきたのかを確認したい場合は、やはり自分でもその情報を精査する必要がありますね。
3.リサーチ現場で注意すべきAIの落とし穴① 少数意見の扱い
――AIを扱う際に、特に注意している点はありますか?
特に注意しているのは少数意見の取り扱いです。
たとえば100件のレビューがあったとして、そのうち2件だけが批判的な意見だったとします。人間が見れば、「大半は肯定的で、一部にこういう不満がある」と判断できますよね。ところがAIは、課題点を探そうとして、その2件の批判意見を「この商品の課題」として、肯定的な意見と同じくらいの温度感で提示してくることがあります。
もちろん、プロンプトで「意見の割合を踏まえて整理してください」と指示すれば、ある程度防げるかもしれません。ただ、AIが出したものをそのまま受け取るのではなく、どの程度の割合で出ている意見なのか、本当に重視すべき課題なのかは、人間が精査する必要があります。これはアンケート結果でも同じです。有効回答数や回答割合といった数字は出ていても、AIがその一部の文言だけを切り取って、「このアンケートではこう評価されている」と結論づけてしまう可能性があります。
4.リサーチ現場で注意すべきAIの落とし穴② 調査対象のずれ
――ほかにも注意点はありますか?
あります。気を付けることが多いのは、調査対象のずれです。
たとえば、男女共通の悩みや課題を調べたいのに、AIが女性だけを対象にしたアンケートをピックアップすることがあります。特に指定がない領域までAIが勝手に広げたり、逆に一部の対象者に偏った情報を出してきたりするんですよね。消費者動向の調査では、対象者の条件がとても重要です。性別、年代、居住地域、購入経験、ライフスタイルなど、条件が少しずれるだけで、使える情報かどうかが変わってきます。
AIは調査の幅を広げるのは得意ですが、細かい条件を詰めていくと、いつの間にか知りたい消費者像や、検証したい仮説から外れていくことがあります。AIとのやり取りにのめり込みすぎて、本来の目的を見失わないようにすることが大切です。
5.AIだけでは得られにくい情報とは?
――AIだけでは得られにくい情報には、どのようなものがあるのでしょうか。
ひとつは過去の情報ですね。消費者意識に関する情報は、Web上に一部分が掲載されていても、古いものや継続的な時系列の情報までは追いづらいことがあります。業界紙や専門紙に掲載された消費者意識調査、政府統計や世論調査のなかにある消費者意識に関するデータなども、探し方を知らないとたどり着きにくい情報です。
MDBではそうした資料を長期的に整理・蓄積しているため、時系列の情報でもご提供できることが多いですね。
もうひとつは、事業者から見た消費者動向です。「売上がどう変わったのか」「食品スーパーでどのようなPOPをつけたら反応があったのか」「店舗ではどのような工夫をしているのか」といった調査会社や業界団体が行っている調査は、冊子や雑誌、新聞に掲載されていることが多いので、AI検索だけでは十分に拾えない場合があります。
さらに、お客様自身が必要性に気づいていない情報もあります。AIは指示していない観点や、調査者自身がまだ気づいていない論点までは出てきにくいことがあります。「追加でこの観点で調査をすれば、こんなことも導き出せそう」といった提案は基本的にはしてくれないため、MDBでは単に「その市場について調べる」だけではなく、必要に応じて企業情報や消費者意識などの調査も組み合わせてご提案しています。
また、有料データベースや新聞記事、論文データベースのなかには、AIによる収集や複製を禁じているものもあります。そうした情報は、AIではなく、適切な方法で人が調べる必要がありますね。
6.AI時代の消費者調査を意思決定に活かすには、何が必要か?
――最後に、AI時代の消費者調査で大切なことを教えてください。
AIはとても便利です。公開情報が豊富にあるかを見たり、関連する言葉を探したり、調査の入口として概要をつかむのには有効な手段です。
ただし、AIの回答は完成品ではありません。少数意見を大きく扱っていないか、調査対象がずれていないか、根拠となる数字は正しいか、古い情報ではないか。そうしたAIの注意点を理解したうえで、人が検証し、整理する必要があります。
消費者調査で本当に大切なのは、情報を集めることだけではありません。その情報を、商品企画や事業判断の文脈にどうつなげるかです。AIだけでは得られない資料やデータも確認し、人間の視点で取捨選択し、意思決定に使える形にしていく。その積み重ねが、実務に役立つリサーチにつながるのだと思います。
7.まとめ:AIの回答を検証し、意思決定に使える消費者インサイトへつなげる
AIは、消費者調査の初期段階で仮説を立てたり、公開情報の有無を確認したりするうえで便利なツールです。レビューの傾向把握や、アンケート調査で扱われやすい観点の整理にも活用できます。
一方で、AIの回答には、少数意見を大きく見せてしまう、調査対象がずれた情報を拾ってしまう、古い情報や根拠が不明確な情報が含まれるといった注意点があります。消費者調査でAIを活用する際は、回答数、対象者、調査時期、情報源を確認し、意思決定に使える情報かどうかを人が判断することが重要です。AIだけでは得られない資料やデータも確認し、人の視点で取捨選択することで、商品企画や新規事業検討に活用できるリサーチにつながります。
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記事制作
マーケティング・データ・バンク(MDB) マーケティング室
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