
AIだけで市場調査はできるのか?見落としがちな情報源と人による検証の重要性
AIは、市場の概況や公開情報の整理に役立つ一方で、企業の意思決定に必要な情報をすべて拾えるわけではありません。新聞・雑誌、有料データベース、専門的な市場調査資料、企業担当者の生の声など、AIだけでは届きにくい情報もあります。
本記事では、マーケティング・データ・バンク(MDB)のリサーチャー・川野さんに、AIでは拾いにくい情報源や、AI時代にリサーチャーが介在する意味について聞きました。
この記事の要点
・AIは公開Web情報の整理には有効だが、新聞・雑誌・有料データベース・専門資料などの情報までは拾いきれない場合がある
・政府統計や論文データベースなど、Web上にある情報でも、AIが正しく読み取り整理できるとは限らない
・市場調査では、企業担当者の「生の声」や海外市場の細かな数字など、AIだけでは判断しにくい情報がある
・事業化検討や提案資料に使う調査では、AIの結果を人が検証し、複数の情報源で補うことが重要
話し手プロフィール
川野 耀佑
マーケティング・データ・バンク(MDB)のリサーチャー。経済紙記者としての経験があり、幅広い分野の時事・ニュースなどに知見をもつ。日々、さまざまな業界の市場調査を通じ、MDB会員企業様の事業支援に携わる。生成AIも活用しながら、調査資料や雑誌・新聞、各データベースなど複数の情報源を組み合わせ、企業の意思決定に役立つ情報提供を行っている。
1.AIだけでは拾いきれない市場調査の情報源とは?
――AIの回答を確認するだけでなく、そもそもAIでは得にくい情報もあるのでしょうか?
AIでは拾いにくい情報源は複数あります。AIは基本的にWeb上の情報をもとに回答するため、一般的なAI検索では、Webに載っていない情報は回答に反映されにくいです。
新聞や雑誌の記事、有料データベース、専門的な市場調査資料などが拾いにくい情報の例です。企業の新規事業開発やマーケティング戦略に活用できる情報は、必ずしも無料のWeb情報として公開されているわけではありません。
MDBでは、市場調査会社のデータベースを活用しているほか、数十万点規模の蔵書を保有しています。紙の書籍や資料にどのような情報が載っているかをデータベース化し、お客様の調査テーマに合わせて適切な資料をご紹介することができます。これは、AIではなかなか得られない情報のひとつです。
2.Web上の情報ならAIで十分に調べられるのか?
――Web上にある情報であれば、AIで十分に調べられるのでしょうか?
必ずしもそうではありません。調査内容により複数の生成AIを使い分けたり、プロンプトを工夫することでかなりの情報が検索できるようになりましたが、それでもプロのリサーチャーから見るとなかなか適切なサイトから正確な情報を引っ張って来られていないな、と感じることがあります。
なのでAIと人による調査を併用する必要性は感じますね。何がAIにできて、何がAIでできないのかを判断するには、日々AIを使ったリサーチをしていないと分かりにくい部分もあります。私たちとしては、お客様からご相談をいただいた際に、そうした判断も含めて情報提供ができるよう心がけています。
3.AIで調べた市場情報はいつ検証すべきか?
――お客様から「AIを使ってここまで調べた」という相談を受けることはありますか。
ありますね。AIが出した結果をもとに、「AIはこう言っているけれど本当か」と相談されることがあります。ほかにも、「他にもっと情報がないのか」「感覚的に間違っている気がするので検証してほしい」といった相談もあります。
実際に見てみると、まったく違うというよりは、おおよそ合っているけれど、ビジネス判断に使うには情報が足りないというケースが多いです。そのような場合、追加で使える情報源を探したり、別の観点から補足したりします。
以前「インドネシア進出を検討しているので、市場環境を調べてほしい」というご相談があったのですが、AIはインドネシアの公的な情報源から得られる概況的な情報までであれば出すことができていました。そこで当社では追加情報として、海外進出事例や新聞・雑誌の記事、各国企業に関するデータベースなどを使い、どの地域で対象産業が発展しているのか、どのような企業が集まっているのかといった情報を提供しました。
アイデア段階の調査であれば、まずAIで検索するのは非常に有効です。ただ、本格的に事業化を検討する、上長やお客様に提案するなど、誰かにアウトプットを見せる段階では、AIの結果を一度検証することが大切です。
4.AIが苦手な「生の声」や海外市場データはどう補うのか?
――市場調査をしていて、特にAIで取るのが難しいと感じる情報はありますか?
ひとつは「生の声」です。「こういうデータはあるけれど、実際の実際の顧客やユーザーがどのような困りごとや課題を抱えているのかを知りたい」というご相談は多くあります。しかし、こうした情報はWeb上では見つけにくいのです。そこで、新聞や雑誌のインタビュー記事、特集記事などから、企業担当者の発言を集めることがあります。また、必要に応じて企業に直接ヒアリングを行い、製品やサービスへの反応、導入時の課題などを確認することもあります。
もうひとつは、海外市場の細かな数字です。AIに海外の市場規模を聞くと、海外調査会社が公表している市場規模が出てくることがあります。ただ、情報源をたどると、有料レポートの販売促進を目的としたプレスリリースであることが多いです。市場全体の数字は分かっても、セグメント別や地域別の詳細を知ろうとすると、数十万円から数百万円のレポート購入が必要になることもあります。MDBでは、一部の調査会社資料について、提携データベースから引用・確認できる場合があります。AIの回答だけでは判断が難しい情報も、適切な情報源にあたることで、より実務に使いやすい形に整理できます。
5.AI時代の市場調査で人が担う役割とは?
――最後に、AI時代の市場調査で大切にすべきことを教えてください。
AIの弱点のひとつは、指示していない観点は出てきにくいことです。まだ自分でもどのような情報が必要か分かっていない段階では、必要性に気づいていない情報を、AIが自然に出してくることはなかなかありません。
日々新聞や雑誌、Webニュースなどを見ていて、たまたま目に入った情報から「これは面白い動きだ」と気づくことがあります。調べものをしている途中で、偶然別の情報に出会い、新しい発想につながることもあります。そうした偶発的な情報との出会いは、AIだけでは起こりにくいと感じています。
だからこそ、市場調査に関わる方には、AIだけでなく、紙の資料や新聞、雑誌、専門データベースなど、複数の情報源を活用していただきたいと思います。
AIは非常に便利なツールです。しかし、市場調査で重要なのは、AIを使うか使わないかではなく、AIで得られる情報と、AIだけでは得られない情報を見極めることです。AIの注意点を理解し、出典を確認し、人の視点で情報を補う。その積み重ねが、意思決定に使えるリサーチにつながるのだと思います。
6.まとめ:AIだけでは拾いきれない情報を、人の視点で補うことが重要
AIは、市場の概況把握や公開Web情報の整理に役立つ便利なツールです。一方で、新聞・雑誌、有料データベース、専門的な市場調査資料、企業担当者の生の声など、AIだけでは拾いきれない情報もあります。
市場調査で重要なのは、AIを使うか使わないかではなく、AIで得られる情報と、AIだけでは得られない情報を見極めることです。出典を確認し、複数の情報源で補い、人の視点で検証することで、事業判断に使えるリサーチにつながります。
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記事制作
マーケティング・データ・バンク(MDB) マーケティング室
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